WHITE ALBUM2 幸せの向こう側|AQUAPLUS

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運命の季節~春夏秋冬~ 

家に帰ると、見馴れない靴が玄関にあった。
紅葉の友達でも遊びに来ているのだろうか?
「あ、おにぃ! ちょっと話しがあるの」
「ど、どうしたんだ?」
紅葉の様子は妙に深刻だった。
「いいから、こっち!」
「あ、ああ……」
俺は紅葉に引っ張られてリビングへと向かった。

リビングには一人の少女がいた。
「……あ、こんにちは」
立ち上がって挨拶をした少女は、紅葉よりも少し小柄だった。
ショートカットでパッと見かわいらしい顔立ちをしているが、
左目に眼帯をしているためか、どこか儚なげな雰囲気を感じさせた。
「彼女は?」
「あたしのクラスメート、春風すみれちゃん。
あ、おにぃのことは先に話してあるから」
「そっか、じゃあ改めて……紅葉の兄の太陽だ」
「はい、太陽さんとお呼びすればいいですか?」
「ああ、かまわないよ」
軽く自己紹介をして、俺は二人と向かい合うように座る。
「で、相談ていうのは彼女のことか?」
「うん、そうなの。えっと……いいかな?」
紅葉が確認とると、すみれちゃんは小さく頷いた。
「じゃあ話すね……」
紅葉はひと呼吸おいてから、ゆっくりと話し始めた。
「すみれちゃんは普段から大人しい子なのね。
あたしは友達ってほど仲がいいわけじゃなかったんだけど、
ずっと気になってた子ではあったの」
「きっかけが無かったってことか?」
「あはは、まあそんな感じかな」
紅葉は苦笑いをしながら頬をかいた。
「でね、最近すみれちゃんの様子がおかしいことに気付いたの」
「というと?」
「うん、ここからが本題なんだけど……。
最近すみれちゃんがいつも以上に大人しいっていうか、
すごく元気が無かったの。
始めはほら、あの日かなって思ってたんだけど、
今日学園に眼帯つけて登校してきたからビックリして……」
紅葉はつらそうな表情をしていた。
どうやらすみれちゃんには深い事情があるらしい。
しかも、かなり良くない事情が……。
「だから今日思い切って話しかけてみたんだけど……」
「紅葉さん、ここからはわたしが話します」
「すみれちゃん……」
「大丈夫です。これはわたしの問題ですから」
「うん……」
すみれちゃんは俺に向き直ると、淡々とした口調で事情を話してくれた。
その内容に俺は思わず耳を疑った。
父親が失業して酒に溺れるようになったこと。
そして酔って荒れた父親を止めようとしたすみれちゃんは、
左目に大きな怪我を負ったのだと言う。
「幸い失明には至りませんでしたが、視力は大きく落ちるとの診断でした」
「そんな……」
言葉もでなかった。
一見なんでもないような口ぶりだが、
精神的な傷だってあるはずだ。
「だからね、あたし、すみれちゃんを家に泊めようと思うの。
おにぃはどう思う?」
「どうと言われてもなぁ……」
こういう問題に他人の俺たちが関わってもよいものなのか、
すぐに判断はできない。
「すみれちゃん、お母さんは?」
「いません。わたしが生まれてすぐに……」
「じゃあ父親と二人で暮らしてるのか……」
それは現状を考えるとかなり危険なのではないだろうか?
紅葉の言うように、すみれちゃんを家に泊めたほうが安全なのは確かだ。
俺としても、すみれちゃんにこれ以上の怪我は負わせたくないし……。
「わかった、すみれちゃんはしばらく家に泊めることにする。
問題を解決する方法はあとでゆっくり考えよう。
すみれちゃんもそれでいいかな?」
「はい、ご迷惑でなければ……」
「良かった……決まりだね。これからよろしく、すみれちゃん」
「はい、よろしくお願いします、紅葉さん、太陽さん」
すみれちゃんは俺に初めて笑顔を見せた。
そのとき俺は、彼女を守ってあげたいと思った。
「そのためには早めになんとかしないとな……」
「おにぃ、何か言った?」
「いや、なんでもないよ。それより腹減った」
「もう、おにぃってばしょうがないなぁ……。
すぐに作るから待ってて」
「あ、わたしも手伝います」
二人は揃って台所へと向かった。
俺は夕食ができるまで部屋で待つことにした――


――続く――
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運命の季節~春夏秋冬~ 

「おにぃ! なにその怪我!?」
帰宅すると、俺の顔を見るなり紅葉が慌てて駆け寄って来た。
「帰りにぶっかった男に殴られた」
「殴り返したりしたの……?」
「いや、俺はなにもしてないよ。それに親切なおっさんに助けてもらった」
「そっか、なら安心。さ、怪我見せて」
紅葉がソファーに座るよう促す。
「悪いな、この前といい心配させて……」
「そんなこと気にしなくていいよ。心配だけなら毎日してるしね」
「それは俺が頼りないってことか?」
実を言うと、そうなんじゃないかという自覚はあったりするのだが……。
「……違うよ、好きだから心配してるの」
傷口に紅葉の唇が触れた。
「っ……!」
チクりとした痛みと共に、甘い刺激が襲う。
「ん……ちゅ、れろっ……」
「く、紅葉!」
そのまま舌で舐められ、俺は激しく狼狽する。
「……駄目だよ、怪我人はおとなしくしてないと。ちゅ……あ……ん」
紅葉は俺の唇に唇を重ねながら体重をかけ、
俺はソファーに押し倒された。
紅葉は俺に腹の上に馬乗りになってキスを続ける。
俺は目を閉じてそれを受け入れた……。

「おにぃ……怒ってる?」
すべてが終わったあと、紅葉が控え目に訊ねてきた。
「怒ってなんかないよ。受け入れたのは俺自身だしな……。
でもどうしてなんだ? 俺たちは兄妹でいようってことだっだろ?」
去年の秋、俺たちは一度だけ愛を確かめ合った。
でも、それは恋人ではなく兄妹になるためだ。
「おにぃ、帰ってきたときつらそうな顔してた。
最初は怪我のせいかなって思ってたけど。
……本当は真白さんと何かあったんでしょ?」
「それは否定しないけど……」
「あたしね、おにぃに恋人ができたって聞いてショックだった。
大丈夫だと思ってたけど……やっぱりダメだったの。
それで今日のおにぃを見てたら我慢できなくなって……」
紅葉の気持ちは俺にもわかる。
もし紅葉に恋人ができたとき、俺は平気だと言える自信はない。
同じ状況になれば同じことをしたかもしれない……。
「紅葉……俺は今でも紅葉が好きだ。
だから、今日のことを悪いとも思わないし、後悔もしない。
でもこれから先は……」
言いかけて、それ以上の言葉が続かなかった。
これから先、俺はどうするべきなんだろうか?
「わかってる。おにぃも迷ってるんだよね……?
でもね、あたしはおにぃがどんな答えを出しても受け入れるよ」
「……ありがとう、紅葉」
今はその言葉だけで精一杯だった。

夜になって真白からメールが届いた。
そこには短く『ごめんね、ありがとう』とだけ書かれていた。
俺は悩んだ末に『淋しいときはいつでもメールしてくれ』と書いて送信した。
俺は真白のために何をしてやれるのか……。
それはまだわからない。
それに紅葉のこともある。
友達でも兄妹でも恋人でもいられないなら、
いったい俺はどうすればいいのだろうか?
答えは……まだ出せない――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

次の日から、紅葉は俺のことを『おにぃ』と呼ぶようになった。
理由を訊くと、「より親しみを込めて」だそうだ。
俺たちは表面上は仲のよい兄妹だが、本当の気持ちは別にある。
それでも俺たちは兄妹でい続けようと決めた。
俺たちはまだまだ子供だから。
そう言い聞かせて……。
「いや、本当は逃げているだけなのかもしれないな……」
紅葉のことも、真白のことも。
俺は最後の一歩手前で踏み出せない臆病者なんだ……。

沈んだ気持ちのまま放課後になった。
頭の中では真白のことが繰り返し思い出される。
視線は下を向いたまま、足取りも重い。
「はあ……」
時折ため息が洩れる。
考えたところで、なにも解決はしないというのに……。
「っ――と……」
肩に軽い衝撃を感じたので顔を上げると、
どうやら向こうから来た人とぶつかったらしい。
「ってえだろうが! ああ!」
「すみません、ボーっとしてたもので……」
しまった……やっかいな奴に絡まれたかもしれない。
「ボーっとしてただと!? ふざけんな! オラ、慰謝料だせよ!」
「今はこれだけしかない」
男に財布ごと投げて渡す。
中には500玉が入っているだけだ。
俺は学園に持っていく財布は別にしてあるのだった。
「テメェ、舐めてんのかっ!」
「ガッ……!」
男は俺の財布を地面に叩きつけると、思いきり頬を殴ってきた。
口の中に鉄の味が広がる……。
「オラァッ!」
「グハッ! ゲホッ……」
立て続けに暴行される。
だが、俺は抵抗することなく黙って殴られた。
こういう奴は下手に刺激しないほうがいい。
「シカトか、テメェ!?」
男が大きく腕を振り上げた。
これはもらうとヤバそうだ……。
「その辺にしときな小僧」
「ああん!?」
病院行きを覚悟したとき、男の腕が後ろから掴まれた。
「なんだオッサン! 邪魔すんなッ!」
男は腕を振り払おうとするが、掴まれた腕はびくともしない。
「いいから止めとけ。……死にたいか?」
「ひっ……!」
男の顔が一瞬にして恐怖に歪んだ。
無理もない、俺すら今の言葉には本気の殺気を感じたぐらいだ。
男は腕を開放されると、一目散に逃げ出した。
「ほら、大丈夫か?」
男を追い払った40代くらいの男性が手を差し出す。
そこにはもう先ほどの殺気は感じられなかった。
「あ、ありがとうございました」
「気をつけな。最近のガキは加減ってものを知らないねぇからな」
「は、はい」
怖そうに見えたが、思ったより優しい人のようだ。
「お前、名前は? 俺は雪白堅治ってんだが」
「あ、俺は夏目太陽です」
「ふっ、太陽か、いい名前だな」
堅治と名乗った男性はニヤリと笑った。
「ど、どうも……」
よくわからないが、俺は気に入られたのだろうか?
「っと、そろそろ行かねえと。じゃあな、太陽」
「あ、はい。本当にありがとうございました」
堅治さんは後ろ手を振って去って行った。
「な、なんだったんだ……」
俺を助けてくれたし、悪い人ではないみたいだけど……。
それに、雰囲気が誰かに似ているような気がする。
「痛っ……!」
それにしても酷い怪我だ。
帰ったらまた紅葉に怒られるんだろう。
それがちょっと憂鬱だった――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

「お兄ちゃん、入っていいかな?」
控えめなノックのあと、紅葉の声が聞こえてきた。
俺は短く返事をすると、紅葉を部屋の中へと招いた。
思えば、紅葉を自分の部屋に入れたのは今回が初めてだった。
それ以前に、女の子を入れたこと自体が初めてなのだけど……。
俺はできることなら逃げ出したいくらい緊張していた。
だが、紅葉を呼んだのは俺自身だ。
紅葉には言わなければならない言葉がある。
だから俺が逃げ出すわけにはいかない。
俺は自分にそう言い聞かせて、ゆっくりと口を開く。
「紅葉……ありがとな」
「お兄ちゃん?」
「嬉しかったんだ、紅葉に言われたこと。
俺、ずっと紅葉に嫌われてるんじゃないかって思ってたから……」
紅葉は一緒に暮らすようになってからしばらくして、俺を避けるようになった。
理由を訊いたことはない。
ずっと怖くて訊けなかった。
紅葉は俺が初めて存在を意識した異性で、そんな異性に対する緊張と不安が、
情けなくも俺を臆病にしていたのだ……。
「あたし、お兄ちゃんを嫌ったりなんてしてないよ。むしろその逆なの」
「逆?」
「うん……あたし、お兄ちゃんのことが異性として好きなの」
「なっ……!」
紅葉の告白に、俺の心拍数が跳ね上がった。
「初めは一目惚れ……かな? 優しそうな人だなって思って。
それから一緒に暮らしていく内に、
どんどんお兄ちゃんに惹かれてる自分に気付いたの」
紅葉は俯いて両手を膝の上で握りしめた。
「兄妹なんだからいけないってわかってる。
だからお兄ちゃんを避けるようになった。
でもダメだった……。
お兄ちゃんにあたしを見てほしい。
あたしを好きになってほしい」
「紅葉……」
「ごめんね、お兄ちゃん……。あたし、悪い妹だよね……」
紅葉の拳の上に涙が落ちた。
「そんなことないさ」
俺は紅葉の頭を撫でてやる。
「悪いのは俺のほうだ。ごめんな……紅葉の気持ちに気付けなくて」
「お兄ちゃん……」
紅葉の涙に濡れた瞳が俺を見つめる。
俺は思わず紅葉を抱きしめていた。
「紅葉は俺の妹だけど、俺はそれ以上に紅葉のことが好きだ」
「うん……」
紅葉は俺の胸に顔を埋めると、小さく頷いた。
「お兄ちゃん……今日だけは、あたしを妹じゃなくて、
秋山紅葉として見てほしいの。
そしたら、明日からはちゃんと兄妹になれると思うから……」
「ああ、わかった……」
俺は紅葉の願い受け入れた。
それは俺も望んでいたことだったから――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

俺が星川学園に入学してから最初の夏が過ぎた。
それは紅葉が妹になってから、ちょうど一年が経ったということでもある。
だがいくら戸籍上は妹だとしても、しょせんはひとつ年下の少女にすぎない。
まったく知らない異性がいきなり一緒に住むことになる。
それは父親が再婚すること、相手の女性が自分の母親になることよりも
遥かに戸惑いが大きかった。
そのため、俺と紅葉の関係は、一年経ってもギクシャクしたままだった。
そんなある日、俺たちの関係を大きく変える出来事が起きた。
「転勤って本当なのか?」
「ああ、最初は断ったんだが、今より給料が増えるからと言われてな……」
「紅葉にもこれからお金が必要になってくるし、
それならって話し合って決めたことなの」
「そうか……」
家族が増えてから生活が苦しくなったことは否定できない。
別に今の生活に不満があるわけではないが、
親としては少しでも豊かな家庭をと思っているのだろう。
「そこでだ、お前も紅葉ももう自分で決められる年頃だ、
どうしたいか希望を聞いておこうと思うんだが……」
「母さんはお父さんと一緒に行こうと思ってるの」
まぁ、再婚したばかりで単身赴任させるのは不憫だろうし、
そうしたほうがいいだろう。
俺はどうするか……いや、答えはもう決まってる。
「俺はここに残るよ」
「太陽……」
「ごめん……でも俺、この町が好きだし、学園もやめたくないんだ」
「頑張って受験して入った学園だものね……。
ここは太陽の気持ちを尊重してあげましょう?」
「そうだな、無理に一緒に行くこともないだろう」
「ありがとう父さん、母さん」
「紅葉はどうする? 一緒に行くか?」
「えっ……あ、あたしは……」
「紅葉のしたいようにしていいわよ」
「う、うん……」
しかし紅葉はなかなか答えを出さなかった。
紅葉はなにを迷っているのだろうか?
俺は、迷わず一緒に行くと答えるだろうと思っていた。
ここに残るとなると、必然的に俺と二人暮しをすることになる。
それは今の俺たちの関係を考えれば想像もできない……。
「あたしも、ここに残る」
「紅葉!? ど、どうして……」
両親よりも先に俺のほうが訊ねた。
「あたし、お兄ちゃんと離れたくないの」
「それはどういう……」
「だって、このまま別れちゃったらあたし、
ずっとお兄ちゃんと気まずいままになっちゃう気がするの。
あたし、そんなの嫌だから……」
そんな紅葉の話を聞いて、両親も俺たち二人がこの家に残ることを納得した。
とはいえ、俺は紅葉の本心をちゃんと確かめる必要があった。
これを機に、俺も紅葉とギクシャクしたままの関係を終わりにしたいと思っている。
そして俺は両親が寝た頃を見計らって、
紅葉に部屋に来てもらうように頼んだのだった――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

あのキスから数日。
俺と真白の関係は今までとは少し違っていた。
デレ期とでもいうのか、真白からの直接的な接触が多くなり、
以前とは違って、態度も柔らかくなった。
「どうしたの太陽? 最近ぼーっとすることが多いけど……」
「いや、ちょっとな……」
俺はつい曖昧な返事をしてしまった。
「もしかして、今の私って迷惑かな?」
「そういうわけじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
「まだ自分の気持ちに整理がつかないんだ。
だから真白の気持ちにどう応えればいいのかわからない」
付き合い始めたきっかけが特殊だったのもある。
あのキスだって、一時的な感情に流されただけだ。
俺はまだ、真白を好きだと言い切ることはできなかった。
「なら、少し距離を置いてみない?」
「えっ?」
「ほら、恋人同士しばらく会えないと恋しくなるって言うじゃない。
逆になんとも思わないならそれまでってことになるでしょ?」
「……真白はそれでいいのか?」
真白は俺を必要としている。
俺と会わなくなったら真白は……。
「私なら平気だよ。今までだってひとりだったんだし、
前の生活に戻るだけだから……」
「で、でも!」
「いいから! しばらくはメールだけにする、これで決定」
相変わらず強引に決めて、真白は屋上から去って行った。
ひとり残された俺は、曇って来た空を見上げる。
好きとは言えなくても、俺は真白のそばにいてやりたいと思っている。
でも、それだけでは恋人にはなれない。
そして、好きという気持ちだけでも恋人にはなれないということを、
俺は身をもって知っているのだった。
ふと思い出す。
そう、あれは去年の秋の出来事――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

昨日の最後の言葉は、未だに俺を悩ませていた。
こんな状態で真白に会って、いったいなにを話せばいいというのか……。
それでも約束は約束なので、俺は昼休みの屋上へと足を運んだ。
「今日は私のほうが早かったね」
屋上の扉を開けると、真白がベンチから立ち上がった。
見る限りでは、真白のほうは普段通りのようだ。
「なんか、俺だけ緊張してバカみたいだな……」
「もしかして昨日の電話のこと?」
真白は俺の呟きをちゃっかり聞いていた。
「……まあな」
言った俺の顔は赤くなっていることだろう。
「や、やだなぁ! そんな正直に肯定されると私も恥ずかしくなるでしょ!」
見れば、真白の顔も少し赤くなっていた。
実は真白も、単に平静を装っていただけなのかもしれない。
「そ、そんなことよりお弁当食べよっ!」
真白はいそいそと弁当を広げ始めた。
今日の弁当も手の込んだ作りだった。
「これは朝起きて作ってるのか?」
「そうだよ。と言っても、夕飯の残りも混じってたりするけど……」
真白はちょっと申し訳なさそうに言った。
「そんなことは気にしないって。それに……」
言いかけて、目についた肉じゃがを口に入れる。
しっかり味が染みていて、なおあっさりとした味付けだった。
「なにより美味いしな」
「……ありがと」
真白は照れくさそうに微笑んだ。

「ねぇ、太陽は料理とかってするの?」
弁当を食べ終えた頃、ふいに真白が訊ねてきた。
「ほとんどは妹がしてくれるから、俺はたまに手伝うくらいだな」
「ふーん、妹さんが料理してるんだ。えっと……」
真白が訊きたいことがわかったので、俺から口を開く。
「両親は県外なんだ。仕事の都合ってだけだから深い事情はないよ」
「そっか。私が複雑なもんだからついね……」
そういえば昨日、家ではいつもひとりだとか言ってたな……。
「あんまり訊かないほうがいいか?」
「ううん、別に平気。むしろ太陽には聞いてほしいかな」
「……わかった」
俺が承諾すると、真白は弁当を片付けてから話し始めた。
「私が学園に通いだしてすぐなんだけど、
突然お母さんが死んじゃったんだよね……」
約二年前ってことは、まだ最近の出来事なんだな……。
「そしたら、それから一週間後に今度はクソ親父が失踪しちゃってさ」
「し、失踪!?」
「そ、ちょっと出掛けてくる~とか言ってそのまんま」
母親を失った娘をひとり残して失踪ってのは、
父親としてどうなんだろうか……。
「捜索願いとか出したほうがいいんじゃないのか?」
「それが毎月必要な生活費が口座に振り込まれるのよ。
だからどっかで生きてるってことになるし、死んでないならいいかなーって」
「そ、そういうもんなのか?」
真白があまりにあっさりとしていたので、俺はちょっと拍子抜けした。
「でも帰って来たら問答無用で投げ飛ばすけどね!」
「そ、そうか……」
クソ親父と言うだけはあって、失踪したことへの怒りはあるようだ。
「なんにせよ俺が投げられたのは、そういう事情があったからなんだな」
「そういうこと。まぎらわしいったらありゃしない!」
それは俺のせいじゃないだろ……。
「けど、家事とかひとりで大変じゃないのか?」
俺には紅葉もいるけど、真白の場合は全部自分でしないといけないことになる。
「私は家事するの好きだし、そんなに大変だとは思わないけど?」
「へー、なんか真白って意外に家庭的なんだな」
「意外で悪かったわね」
「違うって、褒めてるんだよ。
俺が真白だったらそんなに明るくは振る舞えないだろうしな……」
ましてや、あんな人の心を温かくするような笑顔はできないと思う。
「それは違うよ。今の私がいるのは、太陽がいてくれるからなの」
「お、俺が?」
思わずドキッとするような瞳で見つめられて戸惑う。
俺は急速に鼓動が速くなっていくのを感じていた。
「うん、太陽の温かい光が私を照らしてくれるから……」
真白の顔がゆっくりと近づいてくる。
俺は身動きも取れずに、ただ真白の潤んだ瞳に惹き込まれていた。
そして静かに、真白の柔らかな唇が触れた……。
「んっ……はぁ……私はこんなにも自分に素直になれる……」
「真白……」
今度は俺のほうから唇を重ねる。
いつの間にか午後の授業が始まっていた。
それでも俺たちは高まる気持ちのまま、お互いの熱を感じ合っていた――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

真白と話していると、すっかり帰るのが遅くなってしまった。
「紅葉に連絡入れておくべきだったな……」
買った携帯はまだ箱の中に入れっぱなしだったりする。
真白とお揃いということで、その場で開けるのは気恥ずかしかったためだ。
真白には番号とアドレスをすでに教えてあるので、
あとで確認の連絡が来るかもしれない。
「さて、紅葉にはなんて言い訳したものか……」
そんなことを考えているうちに家に着いてしまった。
「ま、正直に話せばいいか」
別に隠すようなことでもないしな。
「ただいま」
「おにぃ、遅いよっ!」
「悪い、思ったより時間がかかったんだよ」
「……真白さんと一緒だったからでしょ?」
さすがに鋭い。
「なんでわかったんだ?」
「おにぃから女の人の匂いがするもん」
「その台詞はなんか怖いぞ」
ドラマなら間違いなく刺されるパターンだ。
「あはは、一度言ってみたかったんだもーん」
紅葉はおかしそうに笑った。
「あのなぁ……」
紅葉が本気で怒ってるわけじゃないとわかってホッとする。
「ご飯は食べたの?」
「いや、まだだよ」
「じゃあ、すぐに準備するから待っててね」
紅葉はエプロンをつけると、台所へと向かった。
俺も着替えてくるか……。

紅葉と一緒に夕食を食べたあと、俺は携帯の機能を確認していた。
とはいえ、基本的には前の携帯と変わらなかった。
この分なら、すぐに使い慣れるだろう。
「ん? 電話か……」
着信相手は真白からのようだ。
「もしもし」
「あ、太陽?」
「そうだよ」
「よかった、ちゃんと繋がったわね」
「そりやぁな。で、なにか用か?」
「んー、とりあえず繋がるか確認したかっただけだけど……。
あ、そうだ、明日も昼休み屋上に来るように!」
「ああ、わかった」
「あれ? ずいぶんと素直だね」
「……ったから」
「んー? よく聞こえなかった」
「弁当、美味かったからって言ったんだよ」
「…………」
こんな台詞、電話じゃなかったら絶対言えないな……。
「……太陽」
「な、なんだよ!」
「大好き――」
それだけ言って電話は切れた。
俺はしばらく携帯を持ったまま停止し、
ツーツーという無機質な音を聞き続けていた――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

学園から少し歩けば、大型ショッピングモールがある。
三年ほど前にできたばかりで、基本的にここに来ればなんでもそろう。
娯楽施設も充実しており、映画館やゲームセンターはもちろん、
バッティングセンターや水族館まであるから驚きだ。
そのため、連日隣町からも多くの人が集まる場所になっている。
「相変わらず人が多いなここは……」
「便利だからねー。ここに来れば一日遊べるし」
確かに、ここに来れば退屈することはないだろう。
「今日は遊びに来たわけじゃないけどな」
「うーん、でも一応これって初デートだよねー?」
「デート!? ただの買い物だろ?」
「恋人同士ならただの買い物もデートになるの」
「そ、そういうものなのか……」
俺はまんまと真白のやつにハメられたってことか。
ううっ、デートだと思うと急に緊張してきた……。
「そういえば太陽ってどこの携帯なの」
「あ、ああ……ハードバンクだけど?」
「なんだ一緒じゃない。それならお揃いにしましょう♪」
「そんな恥ずかしいことできるか!」
相変わらず羞恥心のない真白に俺は頭を抱えたくなった。
「あはは、太陽ってホント照れ屋だよねー」
「おまえが気にしなさすぎなんだ!」
「うーん、それはあるかもねー。
あ、ここだね。早く入ろ!」
「お、おい……」
俺は真白に手を引かれながら店内へと入っていった――

その後どうなったかと言うと……。
「結局拒否できなかった……」
俺は真白に言われるまま、色違いの携帯を買うことになった。
「……ふふーん……♪」
真白はさっきからずいぶんとご機嫌だ。
「なあ、真白」
「んー、なに?」
「真白は俺のどこが気に入ったんだ?」
俺はちょうどいい機会なので思い切って訊いてみた。
「うーん、一緒にいて楽しいっていうのが一番かな♪」
真白はちょっと考えてから、本当に楽しそうに言った。
「私って家ではいつもひとりなのよね。
友達も受験勉強で忙しいから退屈でさ……」
「なるほど。でも俺ってそんなに面白いか?」
俺としてはそんなに面白い自信はないんだが……。
「胸は大きさじゃない、重要なのか感度だ!だっけ」
「えっ?」
「あんな台詞を大真面目な顔で言う人なんて太陽ぐらいだと思うけど?」
「いや、あれは……」
失言だと思っていたのだが、まさかそれで気に入られるとは……。
「それにからかいがいがあるし♪」
「本音はそこか!」
「あははは。ま、そういうことよ」
「ったく……振り回される俺はいい迷惑だよ」
俺なんて、しょせんは遊び相手に過ぎないのかもしれないな……。
「……私は、自分の退屈しのぎに太陽を利用してるわけじゃないよ。
本当に好意をもってるから一緒にいたいの……」
「…………」
真白の目は真剣だった。
だからこそ俺はその言葉を信じることができた。
「わかった。別に俺も真白のことが嫌いってわけじゃないしな。
今すぐ別れてくれとは言わないさ」
「うん、ありがとう太陽♪」
真白は今日一番の笑顔を見せた。
この笑顔がある限り、俺は真白のすべてを許せてしまうような気がした――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

時間は嫌でも過ぎて行く。
俺は不安と不安を胸に屋上へと来ていた……。
「真白は……まだ来てないみたいだな」
辺りを見回すが、夏の日差しが照り付ける屋上には誰の姿もなかった。
俺はなるべく日陰になっているベンチへと腰掛ける。
するとちょうど屋上の扉が開き、制服姿の真白が現れた。
「ごめん、待った?」
「いや、なにも期待してないから待ってない。
むしろ来ないことを願ってたぐらいだ」
「うわ、酷っ! 私、すっごい傷ついた……」
俺の皮肉に対して、真白は意外なほどに落ち込んだ。
しまった、ちょっと言い過ぎだったか……。
「あー、腹減ったなぁ。今日は朝食も食べてないし……」
俺はわざとらしく言って、真白に弁当を催促してみた。
「……ぷっ! あはははは!」
「な、なんで笑うんだよ!」
「あははは、ごめん、ごめん。
やっぱり私、太陽のこと好きだなぁ」
「いっ、意味がわからん……!」
いきなり好きとか言われたら恥ずかしいだろうが……!
とは言葉にならなかった。
「まあまあ、時間もなくなってきたし、さっそく食べてもらおうかな」
「あ、ああ……」
広げられた弁当は見た目もよく、量も手頃だった。
問題は味だが……。
「ねぇ、私が食べさせてあげよっか?」
「断る」
「えー、なんでよ! 誰も見てないよ?」
「そういう問題じゃないっての……」
なんでこいつは平気で恥ずかしいことができるんだろうか?
「い、いただきます」
「うん、召し上がれ♪」
俺はとにかく早く食べ終えてしまうことにした。
なにも言わずに黙々と弁当の中身を食べる。
心配していた味は、正直に言って美味かった。
「ごちそうさま」
「味についての感想……は訊くまでもないか」
真白はニコニコと笑って言った。
なんの文句も言えなくてちょっと悔しい。
「まあ、その……美味かった……」
「ふふっ、ありがと♪」
どうも俺は真白の笑顔に弱いらしい。
真白の笑顔には心をくすぐるような温かさが感じられるのだ。
最初はもっと冷たいやつだと思ってたんだけどな……。
「あ、ねえ太陽、新しい携帯まだなんでしょ?」
「ん? ああ、今日の放課後に買いに行くつもりだけど」
「じゃあ一緒に行ってもいい?」
「金は出さないのにか?」
「まあまあ、いいじゃない。ね、ダメ?」
「……別にダメとは言ってない」
「決まりね。ふふっ、放課後が楽しみだなー」
真白は言いながら立ち上がると、屋上をステージにしてくるくると回る。
ひるがえったスカートの中が見えそうで見えないのが残念でならない。
それにしても真白はいったい俺のどこを好きになったのだろうか?
俺はひとり楽しそうに踊る真白を眺めながらそんなことを考えていた――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

「おにぃ、電話ー」
「おー、誰からだ?」
「……例の真白さんって人から」
「わかった……代わってくれ」
携帯が壊れてしまったため、真白には自宅の電話番号を教えていたのだ。
さっきのこともあるし、紅葉に悪いことしたな……。
「はい、太陽ですが……」
「んー? 元気ないね。怪我痛むの?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
「そう? ならいいんだけど。あ、さっき出たの妹さん?」
「ああ、まあな」
「ふーん、妹いるんだー」
「そんなことはいいから、なんの用だ?」
今はあまり紅葉のことを話す気分ではなかったので、
俺は話題をそらすように用件を訊ねた。
「あー、えっとね、太陽ってどこ通ってるの?」
「学園か?」
「そうそう」
「俺は星川学園の2年だけど……」
「なんだ、おんなじじゃない。っても私のほうが先輩だけど」
「なっ! そうなのか?」
なんか俺より真白のほうが年上っていうのは認めたくない……。
「ま、そういうことだから、先輩は敬うように!」
ムカッ☆
思わずそんな擬音が出てしまった。
なにか反論しないと気が済まん!
「そういう台詞はもっと乳を大きくしてから言ったらどうだ?」
「投げ飛ばすよ?」
「うぉっ!」
受話器の向こうから殺気が伝わってきた。
声は明るいけど、逆にそれが怖い……。
次に会ったらマジで投げられるかもしれない。
「失言でしたスミマセン……」
俺は情けなく謝った……。
「わかればいいのよ。じゃあ、明日の昼休み屋上ね」
「は? なんで?」
もしかしてそこで投げられるのか?
「お弁当作って行くから」
「べ、弁当?」
「そ、彼女なら彼氏にお弁当ぐらい作るでしょ?」
「ま、まぁ……そういうカップルもいるけど」
「じゃ、そういうことで」
「おい、ちょっと……!」
待て、と言う間もなく切れた……。
あいつ料理なんてできるんだろうか?
俺は明日が……いや、これから先が激しく不安だった――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

「……ただいま」
「あ、おにぃ。おかえりー……ってその怪我どうしたの?」
「ははは、いろいろあったんだよ……」
本当にいろいろとな……。
「とにかく詳しい話はあとで訊くから、まずは怪我見せて」
「これくらいたいしたことないって」
「ダメ! あたしに見せるのが嫌なら病院連れて行くからね!」
「わかった、わかった……」
紅葉のやつは時々強引なところがある。
こういうときは素直に従っておくのが一番だ。
「よし、これで大丈夫」
「サンキュー、紅葉」
看護の道を志すだけあって、紅葉の治療は的確だった。
擦り傷と打撲があるものの、しばらくすれば治るだろう。
「で、なにがあったわけ? まさかケンカ?」
「いや、いきなり投げ飛ばされた」
「……なにそれ?」
「しかもその相手は現在俺の彼女だ」
「全然意味がわからないんですけど……」
うむ、正直俺も未だにわけがわからん。
「えーっと、細かく説明するとだな……」
俺は真白とのいきさつを紅葉に話してやった。
「それホントの話?」
「ウソのようだが本当だ」
「おにぃはそれでいいの?」
「いいってわけではないけど、悪いとも思ってないかな?
ま、何事も諦めが肝心って言うしな」
前向きなようで後ろ向きな答え。
でも今はそうとしか言えなかった。
「俺もまだ真白のことをよく知らないし、先のことはこれから考えるさ」
「ふーん、おにぃがそう言うならあたしは口だししないけどさ……」
紅葉は少し表情を曇らせた。
「どうした紅葉?」
「ん……ちょっと嫉妬かな」
紅葉の目にはうっすらと涙が見えた。
「……ごめんな」
俺はそれ以上はなにも言えなかった――


――続く――

運命の季節~春夏秋冬~ 

麗らかな午後。
俺は人通りの少ない住宅街をのんびりと歩いていた。
空は青く、今日も暑い日差しが降り注いでいる。
「もうすぐ夏本番だなぁ」
なんて呟いてはみたが、どうせ今年の夏も平凡に過ぎて行くのだろう。
「うーむ、せめて今年は海くらいは見ておくべきか……」
近年は海水浴すら行かずにダラダラと夏を終えてしまっている。
来年の受験を考えると、学生として遊べるのは今年だけだ。
やっぱり遊べるときは遊んでおかないと損だろう。
「こんっのっ! くそ親父ーッ!」
「ん?」
突然後ろから響いた怒声に振り返ると、
そのまま世界が半周した。
「ちょっ、まっ!」
俺はかろうじて受け身をとって衝撃を受け流す。
が、コンクリートの地面にたたき付けられた衝撃は受け身など無意味に等しかった。
「ぐっ……が……」
激痛で意識が飛びかける……。
「あ、ごめん。間違えた……」
「…………」
オイ、今なんだって?
上から聞こえてきた言葉の理不尽さに、
失いかけた意識が急速に戻った。
「人を投げ飛ばしておいて、間違えたとは何事だー!」
俺は痛みも忘れて立ち上がると、
俺を投げ飛ばした張本人に詰め寄った。
「だから、人違いだったって言ってるの」
「おまえなぁ……下手すれば大怪我するところだったんだぞ!」
実際、かなりの怪我をしてるし……。
「だって似てたのよ」
「誰に!?」
「私のクソ親父と」
そういや投げ飛ばされる直前にそんな怒声が聞こえたような……。
「どの辺りが似てたんだ?」
「えっと……後ろ姿が……」
「そんだけの理由で俺は投げ飛ばされたのか?」
「そういうことになるわね」
「あのなぁ、せめて確認してから投げろよ……」
「……わかった、次からはそうする。
じゃあ、私はこれで……」
「まてーい!」
俺は立ち去ろうとした女の服をガシッと掴んだ。
「なにするのよ! 服が伸びるでしょ!?」
「そのまま帰ろうとするな!」
「なんでよ。用事は終わったわ」
「俺はまだ終わってない」
「なによ……早くしてくんない?」
なんで被害者の俺より、こいつのほうが態度がデカイんだろうか……。
「せめて名前ぐらいは名乗れ。万が一のために連絡先もだ」
「はぁ……仕方ないわね、冬月真白よ。はい、これが携帯番号」
俺は真白と名乗った女の携帯番号を登録しようとしたのだが……。
「……携帯が壊れてる」
どのボタンを押してもウンともスンともいわない。
「えーっと、もしかして私のせい?」
「まず間違いないな」
あの衝撃なら壊れて当然だろう。
「弁償しないとダメ?」
「ダメ」
俺は即答してやった。
「ごめん、ちょっと今月は金欠で……。
なにか弁償以外のことでチャラにしてくれない?」
「たとえば?」
「うーん、そうね……」
真白はしばらく考えて言う。
「私があんたの彼女になってあげる」
「却下」
またも即答してやった。
「なんでよ! こんな美少女が彼女になってあげるって言ってるのよ!?」
「自分で美少女とか言うなよ……」
まあ、言うだけあって確かにレベルは高いけどな。
「私のなにが不満なの!? もしかして胸!?」
「いや、俺は貧乳でも気にしないが……」
「貧乳って言うなー!」
マジギレされた。
そんなにコンプレックスなら言わなきゃいいのに……。
「真白、胸は大きさじゃない。重要なのは感度だ!」
「…………」
あれ? 俺、間違ったこと言ったか?
「あんた、名前は?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。夏目太陽だ」
「暑苦しい名前ね」
「そういうおまえは凍えるような名前だろ」
「ふふっ、それもそうね。じゃあ、これからよろしくね太陽」
「ああ、よろしく……ってなにが?」
つい握手してしまったが、俺には真白の意図がわからない。
「私、あんたのことが気に入ったから付き合うことに決めたわ」
「いや、それは俺が決めることじゃなかったか?」
「とにかく、もう決まったの! 握手したでしょ?」
「そりゃしたけどさ……」
「なら契約成立でしょ?」
「……成立ですね」
「よろしい!」
真白は俺とは対象的に笑顔を浮かべた。
不覚にも俺は、その笑顔を少しだけ可愛いと思ってしまった――

――続く――


一時期ヒマだったので書き始めたもの。
後半になるほど無茶苦茶な展開に……。
微妙に昼ドラっぽい?(苦笑)

明日君スピンアウト―舞誕生日企画SS 

『記念日に祝福を』


「つ、疲れた……」
仕事が終わると、シュージはぐったりと机に突っ伏した。
あたしはそんなシュージを見ながらため息をつく。
「はぁ、このぐらいで根を上げるだなんてだらしないわねー」
確かにいつもよりお客の数は多かったけど、あたしにはまだまだ余裕がある。
「それに今日はあまり仕事に集中してなかったみたいだし」
「うっ、ごめん……」
そこはシュージも反省しているのか、素直に謝ってきた。
原因は今日があたしの誕生日だからだとわかっているので、
あたしもあまり強くは言えず、その話はそこで終わりにした。
そうこうしていると、ふいに親父殿が休憩室に入って来た。
「あれ? どうしたの、親父殿?」
親父殿が休憩室に顔を出すのは珍しいことだ。
シュージも慌てて椅子から立ち上がり姿勢を正す。
「いやなに、今日はおまえの誕生日だからな。
帰る前にこれを渡しておこうと思ったんだ」
「これって小龍包?」
蓋を開けなくとも、匂いでわかった。
親父殿がわざわざ作ってくれたことを思うと、嬉しさが込み上げる。
しかも、ちゃんとあたしとシュージの二人分だ。
「親父殿ありがとう!」
あたしは思わず親父殿に抱き着いていた。
「おいおい、そういうことは愛しの彼氏にしてやんな」
「も、もう! 親父殿っ!」
あたしは耳まで真っ赤になって叫んだ。
「ははははっ、今更照れることもないだろう」
「乙女心は繊細なの!」
まったく、困った親父殿だ……。
「ほら、あまり遅くならないうちに帰れよ」
「はーい。それじゃ、あたし着替えてくるわね」
「わかった、俺もすぐに着替えてくるよ」
「ええ、また後でね。親父殿、これ本当にありがと」
「ああ。帰り道、気をつけてな」
「うん、わかってる」
そんなやり取りをして親父殿が休憩室を出て行くのを見送ってから、
あたしは更衣室へと入って行った。



家に帰り、あたしとシュージは親父殿からもらった小龍包を食べながら話に花を咲かす。
こうして二人きりで過ごす時間が、一日で一番好きな時間だ。
この家で二人で暮らすようになってから、もうずいぶんと経つ。
家の中には少しずつおそろいの日用品が増えていき、あたしはそれらを見る度に、
胸の奥がふわりと温かな気持ちに包まれるのだった。
幸せであればあるほど時の流れは早いもので、
今年も早くもあたしの誕生日がやってきた。
小龍包を食べ終わり、買ってきたケーキにロウソクを立てていく。
「なんか二十歳を超えると誕生日って嬉しくないわね……」
「どうしてだ?」
「月日の流れを意識しちゃって、なんか切なくなるのよね……」
「あー、なんとなくわかるかも。正月とかもそんな感じになるよな」
「そうそう。一年ってほんと早いわよね……」
時の流れはいつだって残酷だ。
止まってほしいと願っても、戻ってほしいと願っても、決して叶うことはない。
「でも、その分密度のある一年にすればいいんじゃないか?」
「それはそうかもしれないけど……」
「少なくとも、俺は舞と付き合うようになってから、
毎年充実した一年を送れてるぞ?」
立て終わったロウソクに火をつけつつ、シュージは笑顔で言った。
「そ、そうなんだ……」
そんなことを面と向かって言われると恥ずかしい。
でも、それはあたしもシュージと同じ気持ちだった。
「よし、準備できたぞ」
見ると、合計21本のロウソクに全てに火が灯っていた。
これからまた新しい一年が始まるのだと思うと、少しだけ不安が生まれる。
「電気消すか?」
「ううん、つけたままでいいわ」
「それじゃ、どうぞ」
「うん……」
あたしは大きく息を吸い込むと、全ての灯かりを一息に吹き消した。
「舞、誕生日おめでとう」
「ありがとう、シュージ」
なんだかんだ言っても、やっぱりこの瞬間は笑顔が浮かんだ。
今年はどんな一年になるのだろう……?
そんなことを考えていると、シュージが小さな箱を取り出して手渡してきた。
「これは?」
「誕生日プレゼント」
「開けてもいい?」
「もちろん」
あたしは包みを開いて、出てきた箱の蓋を開けた――
「舞、結婚しよう」
「…………け、結婚っ!?」
箱の中に入っていたのは指輪だった。
それを見てもなお、シュージの言葉を理解するのに数秒の時間を要した。
「ちょ、ちょっと本気なの!?」
「当たり前だろ。冗談でこんなこと言わないって」
「で、でも結婚って、あの……えっと……」
いきなりのことだったので、あたしは柄にもなく慌ててしまう。
「駄目ならそう言ってくれてもいいけど……」
「だ、駄目なわけないじゃない! って、あ……」
しまった!と思ってももう遅い。
あたしは反射的に承諾の言葉を発してしまっていた。
「あの……その……そういうわけだから」
「結婚してくれるか?」
「……はい」
あたしは真っ赤になって頷いた――



衝撃の告白からおよそ一時間後。
あたしとシュージはベットの上で寄り添いながら語り合っていた。
「ねぇ、シュージ」
「ん? なんだ?」
「あたしたちが結婚したら、彼女は喜んでくれるかしら?」
「彼女って、明日香のことか?」
「うん……」
若宮明日香――
それはシュージにとっても、あたしにとっても大切な人の名前だ。
彼女のことを考えなかった日は一日だってない。
「大丈夫だよ。明日香ならきっと喜んでくれるさ」
「そ、そうかな……」
「ああ。それどころか、式の当日あたりにひょっこり帰ってくるかもしれないし」
「あはははは。そうね……うん、そうだといいな」
今回のことを明日香さんに報告したくても、今はできない。
そのことが少しだけ淋しいと思う。
だからこそ、もう一度明日香さんに逢いたい。
そして、今度はちゃんとあたしの気持ちを伝えたい。
きっと今なら、色々なことがわかり合えると思うから。
「さ、そろそろ寝ようか」
「うん。おやすみ、シュージ」
「おやすみ、舞」



その日、あたしは夢を見た。
小さな花束を持った彼女は、無邪気な笑顔を浮かべていて。
『おめでとう、舞ちゃん!』
そう言って祝福してくれたのだった――


おわり



以下、あとがき。
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明日君スピンアウト―瑠璃子誕生日企画SS 

『終わりと始まり』


「キレイ……」
わたしは泣いていた。
夕日に朱く染まる海。
御風島の海辺に来れば、晴れの日はいつでも見られる美しい景色。
だけど、今日だけはその景色がとても切なく儚ないものに映った。
「なにを黄昏れてるんだ?」
ふいに、見慣れた白衣を羽織った人物がわたしの隣に立った。
ハッとして、わたしは慌てて目元を擦る。
「……別に黄昏れてなんていませんよ」
ぶっきらぼうに答えて、わたしはまた海へと視線を戻した。
「どうだかな。本当は寂しいんじゃないか?」
「…………」
さすがにお見通しらしい。
それが悔しくもあり、少しだけ嬉しいとも思う。
だからわたしは、ちょっとだけ弱みを見せた。
「どうしてわたしは生まれてきたのでしょうか……?」
「えらく唐突だな」
「そうでもありませんよ。昔からずっと考えていたことです」
「……そうか」
苦い笑みを浮かべながらため息一つ。
「なぜ生まれてきたのかは、本人にしかわからん」
そう言って砂浜に座る気配。
わたしはまだ立ったままで聞き返す。
「本人しか?」
「ああ、そうだ」
「でも、わたしにはわかりません……」
そもそもわからないから訊ねているのに。
「俺だってまだわからないさ」
「えっ?」
「瑠璃子を救うためだとか、患者の命を助けるためだとか、
いろいろ考えたが結局答えは出ていない」
「そうですか……」
言って、わたしも砂浜に腰を下ろした。
「ま、人生は長いんだ。まだまだ考える時間はあるさ」
人生は長い……本当にそうだろうか?
答えを出せぬまま死んでいった人たちも大勢いると思う。
それとも、もしかしたら生まれてきた意味というものは、
死ぬ間際にかわからないものなのかもしれない。
「わたしのパパとママは答えを出せたのでしょうか」
「それは訊くまでもないことだろう」
「……そうですね」
わたしの存在こそが、パパとママが生まれて、そして出逢ったことの意味そのもの。
それは最近まで二人を側で見ていたわたしにはわかる。
「わたしにも見つかるでしょうか、わたしが生まれてきた意味が」
「ああ、それだけは保証してやる」
「ありがとうございます、直輝おじさん」
「ふん……あまり長くいると風邪をひくぞ。
今日はせっかくの瑠璃子の誕生日なんだ、早く帰ってこい」
直輝おじさんはそれだけ言って砂埃をはらうと、
そのまま静かに立ち去った。
また独りになったわたしは、座ったままで眼を閉じた。
まぶたに浮かぶのはパパとママの笑顔。
そして、着物を着た小さな女の子の言葉。
しばらくして眼を開けると、もうすっかり日は沈んでいた。
わたしは立ち上がり月を見上げる。
パパとママはあの月よりも遠いところに行ってしまった。
そのことは確かに悲しくはあるけれども、
わたしは二人のためにも生きていこうと誓った。
あの小さな女の子の『おめでとう』という一言がわたしの始まり。
だから最後は『ありがとう』と言えるように。
わたしはこれからも探し続ける。
「ママ、お誕生日おめでとう……」
ママが生まれたことに意味があるように、わたしにもきっと……。
その時、ひときわ強い波音がした。
それはママからの返事のようで、わたしの不安を優しくさらって行った。
「ふふ……」
わたしはやっと笑顔になると、海に向かって大きく手を振った。
大好きな両親に、もう大丈夫だよと伝えるように。
そんなわたしの姿を、柔らかな月明かりだけが見つめていた――





-あとがき-
誕生日企画なんだからもっと明るい話にすればいいのだけど、
SOではできないことと自分がやりたかったことを合わせた結果、
こういう内容になりました。

やりたかったことについて。
まず、主人公を途中まで伏せること。
SOだと話し手を明記しないといけないし、
明記しなければすぐにわかってしまう可能性があるからね。

次に、冒頭の表現(涙の理由)。
冒頭で『泣いていた』と書くことで読み手を引き込むのが狙いです。
でもって、泣いていた理由は最後まではっきりとは書いていません。
最低限のワードだけ散りばめて、あとは読み手の想像にまかせました。

他には、直輝にも注目してほしい。
残され続けた男が見つけ出す、自分が生まれた意味はなんなのか?という
問いかけの答えとは……。
ぶっちゃけ、いい加減とっとと結婚しやがれ!と思わせるのが狙いです(笑)。


<人は生まれながらにして旅人である>
とは私の言葉なわけだが、
この話のテーマはそこにあります。
旅の終着点はどこにあるのか、そこにあるモノなんなのか。
見つけ出せた時、人は生まれてきたことに感謝するのだと思います。
あなたにも、いつか見つけ出せますようにと願って――
HAPPY BIRTHDAY!

一分で読み終わる短編 

『まるでしがない小説家のように』


カリカリとペンを走らせる音が響く。
最近は誰もがキーボードを使うが、
やはり俺にはアナログの方がしっくりくる。
今書いているのは、とある物語だ。
あらすじだけ書くとすれば、ある小説家の日常とでも言うべきか。
まぁ、とにかくそんなに面白いものじゃあない。
彼は小説家であるわけだから、もちろん毎日小説を書いている。
彼が作中で書いている小説は、ある小説家の日常とでも言うべきか。
まぁ、とにかくそんなに面白いものじゃあない。
はて。
これはまさに今の俺ではないのか?
つまり、彼は俺であって、俺は彼なのである。
そうするとどうだ。
彼は俺の小説の中で生き続ける。
そして俺もまた、彼の書く小説の中で生き続けることになるではないか!

ああ、これではまるで死がない小説家のようだな。

……などと苦笑いを浮かべつつ、今日もしがない小説家は小説を書き続けるのである。





なんだこれ(笑)。
深夜の思いつきで書いてみたが、馬鹿なお話だなぁ……。
でも、こういう言葉遊びは大好きです。



千鶴の近所のお兄ちゃんさん<<
そうだねー、読み手がいなきゃつまんないのは確かだよ~。
書いてる時のワクワクと、読んでもらう時のドキドキ。
それがあるから物書きはやめられないわけです(笑)。

明日君の短編ですー 

一週間遅れですが、明日香の誕生日企画の短編を書きました。
いや、当日を忘れてたわけではないのですが、
どうにも創作意欲が出なくてですね……。
しかも携帯で打つのを考えると尚更やる気が出ず、
今回ようやく重い腰を上げました(苦笑)。
今更だとは思いますが、暇ならちょちょいっと読んでみてくださいな。
相変わらず拙い文章ですけどね……。
あと誤字脱字も見逃してくださいな(苦笑)。





タイトル:『分かち合う日々をいつまでも』


俺と明日香は、海辺の静かな波音に耳を傾けながら歩いていた。
今日は満月で、そのまばゆい月明かりが髪を解いた明日香を少しだけ大人に見せている。
「ねぇ、シュウ君ってどんな時に泣くの?」
「えっ?」
明日香に見とれていた俺は、不意に投げかけられた質問によって我に返った。
「なんだかシュウ君が泣いてるところってあんまり見たことないなーって思って」
「ああ、うん……」
明日香の前で泣くなんて恥ずかしいという気持ちがあるからにしても、
確かに最近涙を流したことはなかったな。
「だから前からちょっと訊いてみたかったんだ」
と言われても、自分が泣く時なんてあまり意識しないからなぁ……。
「うーん、そうだな……感動して泣くことは少ないから、
やっぱり悲しい時かな?」
「そっかー、シュウ君でも悲しいと泣いちゃうんだね」
「そりゃそうだろ。俺ってそんなに淡泊に見えるか?」
そうだとしたらちょっとショックだ……。
「ううん、違うよ。そうじゃなくて、えーっと……」
明日香は空を見上げながら困ったように言葉を探している。
俺もつられて空を見た。
月は相変わらず濁りのない光を放っている。
その美しい満月は、じっと見ているとそのまま吸い込まれてしまいそうな気がした。
「例えば、シュウ君はどのくらい悲しいと泣くのかな?」
俺は再び明日香の質問で我に返る。
視線を戻すと、明日香はわずかに不安そうな顔をしていた。
「そう言われると難しいな……」
「じゃあ、あたしが神隠しに遭った時シュウ君は泣いた?」
「いや、あの時は涙を流す余裕すらなかった気がする」
「そうなんだ……」
「でも一番悲しかった出来事なのは確かだから、
今度同じことがあったら泣くかもな」
あの時は泣かなかったとしても、もうあんな思いは二度としたくない。
大切なものを失うことだけは、もう二度と……。
「……大丈夫だよ」
「明日香?」
「大丈夫、もうあたしはどこにも行かないよ。
ずっとシュウ君のそばにいるから」
「ああ、是非そうしてくれ」
俺は明日香の手を握って、ぎゅと力を込めた。
すると、明日香も同じように俺の手を握り返してくれた。
明日香の手は、少し冷たくなっていた。
「シュウ君はあんまり自分以外の人、特にあたしには涙を見せてくれないから。
ちゃんと悲しい時に泣いてるのか不安だったんだ」
「それは悪かった。でもそれは……」
「心配かけたくないから?」
俺の言葉を遮って明日香が言葉を紡いだ。
それは俺が言おうとしていた言葉に他ならない。
「シュウ君にとっての『悲しい』は、あたしにとっても『悲しい』なんだ。
だからたくさん心配するよ?」
そうだ、それがわかってるからこそ俺は……。
「でも、それって当たり前のことだし、なによりあたしはシュウ君の悲しみを少しでも分かち合いたいの」
握られた手が、明日香の胸元にに引き寄せられた。
それによって、明日香との距離が一歩近くなる。
「ずっとあたしのそばにいるのなら、ちゃんとあたしにもシュウ君の涙を見せてほしいな……」
「明日香……」
俺はいつの間にか明日香に自分の弱さを見られることに対して臆病になっていたんだ。
だから俺は、涙を見せないことで強い自分を演じていた。
その結果、明日香を不安にさせていたことにも気付かずに……。
「わかったよ、これからは悲しい時は明日香の前で泣くことにする」
「ほんと……?」
「ああ、だからちゃんと慰めてくれよ」
「うん!」
ちょっと冗談っぽく言ってみたのだけど、
明日香は笑顔で頷いてくれた。
それでようやく俺達の間にいつもの空気が流れた気がした。
なので俺は、明日香とここに来た本来の目的を果たすため言葉を続けた。
「でもな、最近は全然悲しいことがなかったから泣いてないんだ」
「そうなの?」
「ああ、だって明日香が毎日俺のそばで笑ってくれてるんだからな!」
言って俺は明日香にキスをした。
「……!? もう! シュウ君っ!!」
「あはははは、やっぱり明日香は可愛いな」
「それって今は関係ないよ!?」
「俺にはあるんだよ。ほら、もう一回キスしようぜ」
「むー、なんかごまかしてない?」
「してない、してない。もっと顔寄せて、目も呟って」
「……んっ」
まだ不満そうにしていた明日香だったが、一度間を置いてから素直に指示に従った。
俺はそんな明日香の髪に触れると、用意していたリボンをそっと結んでからキスをした。
不思議そうに目を開けた明日香に、俺は笑顔で言う。
「ハッピーバースデー、明日香!」


――終わり♪

100ワードの奇跡 

タイトル『七海真奈美、血まみれ事件』


「突然だが七海、おまえにはセクシーさが足りない!」
「なんですとー!!」
「だからおまえは無駄に巨乳だとか言われるんだ」
「くっ、反論できない……」
「というわけでだ。今日は七海にセクシーなイメチェンをさせようと思う」
「頑張ろうね、ナナちゃん!」
「わたしも微力ながらお手伝いさせてもらいます」
「明日香、瑠璃ちゃん。ありがとう!」
「では、さっそくこの服を着てみてくれ」
「なんだこの服?」
「里佳姉が若気のいたりで買った服だ……」
「うわー、背中が丸見えー」
「スカートはこれな」
「み……ミニミニですね……」
「これも以下同文だ」
「若さって怖いね」
「いやいや、当時は似合ってたんだぞ」
「あの……ほ、本当に七海がこれを身につけるのか?」
「当然だ! さあ、脱げ!」
「ここで!?」
「シュウ君の前で生着替えだね!」
「シュウ先輩は後ろ向いててください!」
「はい……」
――5分後
「シュウ先輩、終わりましたよ」
「おう……おおおっ!」
「し、シュウ君っ! 鼻血! 鼻血!」
「はい、ティッシュです」
「す……すまん、思ってたより刺激が強くてつい……。
予想よりもエロ……じゃない、似合ってると思うぞ」
「そんなにまじまじと見ないでくれ……」
「いやいや、ここで恥ずかしがってたら真のセクシーにはなれないぞ」
「そうだよナナちゃん、もっと自信もって!」
「う、うん……」
「うーん、ここはもうひと押し必要だな」
「それなら、わたしに任せてください」
「リコに?」
「はい! シュウ先輩はもう一度後ろを向いててくださいね」
「ああ、わかった」
――10分後
「できましたー。もうこっち見てもいいですよ」
「よし、どれどれ……」
「……どうかな?」
「誰だ?」
「七海美菜に決まってるだろ!」
「えっ、マジで?」
「みつ編みをほどいて少しウェーブをつけてみたんですよ」
「驚いたな、髪型でここまでイメージが変わるとは……」
「ナナちゃん、すっごくセクシーだよ!」
「ほ、本当か!?」
「ああ、これであとはポーズだけだな」
「ポーズ?」
「胸を寄せて谷間を強調させながら、舌で唇を舐め上げてウインク!」
「ええっと……こんな感じか?」
「グッジョブ七海!」
「シュウ君、また鼻血が出てるよ!?」
「ティッシュどうぞ」
「度々すまないなリコ……って、なんか怒ってないか?」
「いいえ、ちっとも怒ってなんかないですよ?」
「そ、そうか……」
「あら? あんた達なにやってるの?」
「あ、里佳ちゃんお帰りー」
「お帰りなさい」
「ええ、ただい……ま!?」
「あ、あははは……」
「あんた誰?」
「ナナちゃんだよ」
「えっ、本当に七海なの?」
「そ、そうだぞ……」
「へぇ、変われば変わるものねー。って、その服って私のじゃない!」
「コソコソ……」
「シューーウ?」
「いや、これには深いわけが……」
「そうなの~。それじゃあ一時間正座で話してもらおうかしら~?」
「逃げるが勝ちだ!」
「あっ! 待ちなさいシュウ!」
「待てと言われて待つやつなどいない!」
「なら仕方ないわね……明日香、追いかけなさい!」
「ラジャー!」
「ひ、卑怯だぞ!? うわーーっ!」
「捕まえたよー」
「よくやったわ、明日香。さぁシュウ、覚悟はいいわね?」
「ちょっ、まっ! アーッ!!」
「ところで……七海はいつまでこのままで?」
「はぁ……わたしもセクシーを目指してみようかな……」
「おーい? 瑠璃ちゃん?」
「お姉ちゃん! ここに居たんですね!」
「うわっ、真奈美!?」
「……!? お、お姉ちゃんが……」
「真奈美っ、鼻血! 鼻血!」
「はわはわ、セクシーなお姉ちゃんの顔が近くに!」
「しっかりしろ、いま七海が助けてやるからな!」
「はうあっ、セクシーなお姉ちゃんが真奈美を介抱してくれるなんてっ!?
はぅ~、もうダメ……」
「真奈美ーーーーっ!!」
―――
――

七海真奈美、血まみれ事件
~完~

続きを読む

恥さらしはほどほどに…… 

シリーズのおまけファイルなんかを読み直すからこうなる(苦笑)。
相変わらずの思い付きだが、一応トウカの大ざっぱな設定は出来てる……つもり。

世界設定はマシーナクロニクルなんだけど、内部の人じゃないので実際は割と適当。
各種キーワードを借りるくらい(秘石とかね)。

時系列は『マシーナの輝石』の前でグリノック文明崩壊前です。
正確にはグランド=ルネッサンス前かな。
詳しくはシンの過去1で書く予定。

話の内容は純愛もの。
個人的な妄想外伝なのでバトルは無し。
あくまでトウカとシンの恋愛物語にしたい。
秘石の特殊能力は戦闘にも応用できなくはないが……。
詳しくはトウカの誕生で書く予定。

テーマは『哀と愛』
哀が冬、愛が夏などと書くとちょいネタバレ(じゃあ書くなよ
人が機械をではなく、機械が人を愛してよいのか?を考える。

シナリオ進行予定
・これからの生活について~トウカの身体構造の説明
・二人の日常~トウカの性格とマスターに対する想い
・シンの過去1~秘石及び自律動人形に関する資料の入手
・トウカ誕生の経緯~生まれながらにA.Iとして覚醒した理由
・トウカの苦悩~人を愛してよいのか?
・シンの過去2~自らの罪と贖罪
・トウカの答え~哀か、それとも愛か


という感じで章分けしたい。
さて、どうなるのかしらね?

妄想マシーナクロニクル 

作品名:機械人形の歯車――哀と愛 二つの心――



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『序章 機械の瞳』

画面暗転後
背景:研究室

「ワタシの名前はね、冬夏-トウカ-って言うのよ」
少女はくすりと笑って目の前の男を見上げた。
その仕草はとても『人間的』で、『汚れ』というものがなかった。
しかし男は、そのあまりの純粋さと無垢な瞳に恐怖した。
踏み込んではいけない領域――
そこに少女は到達してしまった。
A.I(Artificial Intelligence)
それは人間が造り上げてはならないもの。
それは機械が到達してはならないもの。
高度な知能を持つものは人間のみであり、
その恩恵は神のみが与えることのできる――
それが世界のルールだった。
だが、少女はここにいる。
明らかな自我を持って――
長らく禁忌とされてきた扉が、再び開かれてしまったのだ。
犯した罪の重さから逃げ出すために、
すべてをなかったことにすることもできる。
だが、男は少女を『殺す』ことはできなかった。
自分は生涯をかけて、このトウカという少女の行く先を見届けなければならない。
パンドラの箱の最後には希望が残ったというのなら、
自分もその希望にかけてみようと思った。
それがパンドラの箱を開いた者の儚い幻想であったとしても……。
男はゆっくりと手を差し出す。
「俺の名はシン。禁忌を犯した偽神だ――」
手を繋いで歩き始めた二人の行く末は希望か絶望か。
世界の歯車が静かに廻りだす。
その中心で眠る生命が願うことはただひとつ。
「あなた達にたくさんの幸せが訪れますように……」


オープニングムービー in
主題歌『哀ゆえに愛するもの』

暗闇の中であなたを見た
温かな光が胸に満ちる
けれどそれは哀の始まり

わかってしまった
もう戻れない
ワタシはここにいる

触れて欲しい その温もりで
愛して欲しい 哀であっても
いつか見た水銀の海へ
あなたを連れていくから
ワタシのすべてを受け入れて
AI love master――


オープニングムービー OUT


テロップ画像表示
『一章 機械の身体』

以降未定。
色々とごめんなさい(苦笑)。
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